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第6章 天敵あらわる

「あの……、田中課長と藤堂さんって、もしかして恋人同士だったりします？」


（キタ！　やっぱり来た！）


麻理の目は好奇心にキラキラ輝いている。

「え？　なにを言ってるの？　どうして、そうなるの？　栗原さん」
加恋が珍しく動揺している。もはやバレバレの態度である。


「だってー、お二人が何だか目で会話されてたから、そうなのかなーって」

「い、いくらバイトの学生だからって失礼よ。
田中課長には"綺麗な"奥さんと可愛い娘さんがいらっしゃるの。
変な勘ぐりは、ご迷惑よ」

"綺麗な"と言うところで加恋の声が冷たくなった気がしたが、この場ではもはやどうでも良い事だ。麻理の疑念を晴らすのが第一優先だった。


「田中課長って、結婚されてるんですねー」

『へ～～』といった表情で麻理が私を見る。そう言えば、麻理にはまだ私が既婚者である事を告げていなかった。

不味い事を思い出したと、私の腋の下に汗が滲んだ。


「ま、まあ、そう言う事だから。
藤堂さんは独身だし、わが社の花形女子社員でもある。
若い男性社員に人気もあるし、僕のような子持ちの妻帯者なんか相手にするわけないじゃないか　笑」

笑ってみせたが、自分でも頬が引きつっているのが分かった。おそらく、麻理は今のやり取りで確信を得たはずだ。

「藤堂さん、田中課長。　失礼な事を言って、申し訳ございません」
そう言うと、麻理は深々と頭を下げた。

またしても、顔は見えないが、なんとなく麻理がニヤついているような気がした。


「分かれば良いのよ。　若い子は色恋に敏感だから、そういうシチュエーションを求めて妄想するのかもね　笑
さあ、栗原さん。　続きを案内するわ」

「あ、藤堂さんは栗原さんに社内を案内していたのか。
じゃあ、僕は業務に戻るから」

彼女たちに声をかけて、私は執務室に戻った。しかし、背中に視線が纏わりついてきて、足が重たく感じられた。