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BeLoved.
第43章 【彼の根底にあるもの。1】

仕事人間だった。
才もあったのだろう、先代から社を引き継いで間もない頃から驚異的な勢いで業績を挙げ続け、瞬く間に規模を拡大させた。
その反面家庭は顧みず、妻子には愛も関心もなかった。
愛人たちに沈弱し惚け、稀に帰宅したかと思えば、家長として君臨し妻や息子たちに完璧を求め、手も上げた。
「特に流星は病弱だったから。疎まれてね」
「…。…?…息子…"たち"?」
そこが引っかかった。流星さまは本妻さんとの子供。確か椎名さまは…その…愛人さんとの子供…だったはず。
他にもご兄弟が…?浮かべてしまった怪訝な表情から察した椎名さまは、更に話してくれた。
「流一朗さんの子供は僕達2人だけだよ。僕は11歳からここで厄介になってるの。実母が死んだから」
「…!」
「言っても中高一貫の全寮制行ったから、まともに居たのは一年ちょいだけどね」
「そう…だったんで」
「──あ待って、違う違う。僕と流星の間に2人居た」
本当なら本妻との間には3人子供がいた。居る『はず』だった。
2人は月満ちる前に流れてしまった。
「当時の資料を見ると、精子の方に問題があったみたいだけど。母体へのストレスも相当だったみたいだしね」
「…」
「そんなこんなでやっと生まれたのが流星。でもいくら自分から一文字取りたいからって、2回も流産させた相手との子供に"流"を付けるなんて。身勝手の極みでしょう」
そこで椎名さまは立ち上がり、お父さまの掛け布団を軽く直しながら最後に呟いた。そんな『俺様』も、こうなってしまえば形無しだ、と。
──言葉が出てこなくて。膝上に乗せた鞄を無意識に握りしめた…その時だ。わたしが『それ』の存在を思い出したのは。
「…あの…聞いてもいい…ですか…」
「なに?未結ちゃん」
不躾だと理解してる。だけど抑えられなかった。
この人は知っている。わたしが知らないことを、沢山。
だってこの人は、腹違いでも不仲でも…彼のたった一人の兄だ。もしかしたら──
「このかた…ご存知…ですか」
声と手を震わせ差し出した、携帯。
画面には流星さまと…女の人。…そう『あの写真』だ。
麗さまに見せる前、一枚だけ撮影し保存してた。何故そうしたのかは判らない。無意識だった。そして
「ああ、幸ちゃんだ」
「…さち」
渇望していた『真実』は、わたしの心を殺してくれた。
「流星の恋人だよ」

