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BeLoved.
第43章 【彼の根底にあるもの。1】

──あれ、おかしいな。なに?この気持ち。
予想していたし、弁えていたことじゃない。
「流星、幸ちゃんのこと大好きでね」
わたしは家政婦で、彼は雇用主のひとり。
それ以上でもそれ以下でもないんだって。
「あの子この子に童貞あげたんじゃなかったかな?」
たとえどんなに身体を重ねても
『愛してる』って何度伝えられても
「幸ちゃんも流星のこと好きでいてくれて」
わたしは家政婦。彼は雇用主のひとり。
わたしと彼とは住んでいる世界が違う。
「ふたりとも幸せそうだったよ」
……最初からわきまえていたじゃない……
「まあ、幸ちゃんもう居ないけどね」
呪文みたく、心の中で繰り返していた最中。それまで通り抜けるだけだった椎名さまの声は、わたしを現実に引き戻した。これ以上ない衝撃と共に。
「死んじゃったから」
「?!」
「一昨年頃かな。病気でね。呆気なかったよ」
…亡くなった?…こんなに若いのに?
「若いから、だよ。──あ、わかった」
返されたとき手を滑らせ、落としてしまった携帯。椎名さまはそれを拾い上げ軽く拭ってくれた後、こちらに差し出した。画面に写るのは──あの写真。その向こうで。流星さまと瓜二つの三白眼の瞳は、わたしをまっすぐ見据えた。
「未結ちゃん、幸ちゃんに似てるんだ」
──あれ、おかしいな。どうしたんだろう。
何も見えない。聞こえない。感じない。
彼の兄の言葉と……眼差し以外は。
──流星が本当に好きなのは幸ちゃんだけ。
──きみは幸ちゃんの身代わりだったんだ。
「だから麗ちゃんと"ふたりのもの"になんてできたんだね」
本当なら他の誰にも触れさせない。
何が何でも自分だけのものにする。
それが有栖川の人間。実際流星の母親は、そうやって流一朗さんを手に入れたんだよ。
「言ったっけ?流一朗さん、婿養子なの」
既に妻子…つまり僕と僕の母親がいた流一朗さんに横恋慕した、有栖川の一人娘は。
金、権力、色香。己の武器を総動員し奪い取った。
ずっとこの『俺様』に尽くしっぱなしだった僕の母親は病んじゃってね。早死したよ。
そんなことばかりしてきたから、有栖川は古から沢山の恨みを買ってきてる。冗談抜きで呪われた家系なの。
「だから流星も"視える"んだよ。可哀想にね」

