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BeLoved.
第44章 【彼の根底にあるもの。2】

彼が小さかった頃からずっと抱いていたもの。
それはきっと『愛されたい』というねがい。

…ううん。それよりもっと枢要なもの。
言うならば『生きていていい』という安心感。

姿を見て。声を聞いて。肌に触れて。…切望したはず。だけど、一番焦がれた相手は彼を拒んだ。彼に残ったものは傷と、絶望…だったかもしれない。

「……」

わたしはその感情に覚えがあった。…微かにだけど。
そう、あれはたしか、わたしがもっと──…駄目だ、思い出せない。必死で記憶の糸を辿っているときだった。彼がまた言葉を続けた。

「…その後の母親、本当に馬鹿なんだけど」
「え?」
「"悪い薬" 覚えちゃってね」

『悪い薬』。それが何か、わたしでもわかる。

彼の母は、それは容姿端麗だったそうだ(今の彼を見れば納得できる…)。そのお陰…かどうかはわからないけれど苦労も不幸も知らずに生き、一周り年上の男性に見初められ、高校を出て直ぐに結婚し、家庭に入った。

三人の子宝にも恵まれたが、夫は多忙を極めなかなか帰れなかった。実家も頼れず、また『自分から』助けを求る方法も知らない。独り家事と育児に明け暮れる毎日に、確実に心を蝕まれていったそうだ。

いつしか怪しげな連中につけ込まれ『悪い薬』を教えられ、溺れてしまった。


「メシマズだったのもね、それが原因。薬のせいで味覚崩壊してんだから、当然だよね」
「あ…」
「最終的に全部明るみに出たのがね、笑えるよ。俺の7歳の誕生日。家族でケーキ囲んでたら警察来たからね」
「……」

然るべき場所に収容された彼の母は、結局そのまま二度と帰っては来なかった。──住む世界を雲の上に変えたから。
彼の『ねがい』も『絶望』も、置き去りにして。


「…この話したの、未結が初めてだよ。流星にも話したことない」

抱きしめてくれる手に力が込められた。

『本当のこと』それは彼にとってつらいこと。だけど彼は打ち明けてくれた。それは、わたしに自分のことを知って欲しいから。

彼は…麗はいつだってそう。いつだって『素』の自分を見せようとしてくれる。自分がわたしのことがをどれだけ好きで、どれだけ自分の中で『特別』な存在なのかを伝えたいから。…だからわたしは惹かれてやまないんだ。
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