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BeLoved.
第44章 【彼の根底にあるもの。2】

「──ほんと、未結には適わないね」

ひとしきり、じゃれあいを楽しんだ後。
ぽつりと彼は呟いた。

「大好きだよ」
「…、ん…」

与えられたのは、唇へ触れるだけのキス。でもそれは優しくてあたたかくて…胸を突く。そして彼は静かに…決意を込めたようなはっきりとした口調で言ったのだ。

「──未結には話すね、本当のこと」

──────────

本当のこと。…なんだろう。一抹の不安と緊張を抱えつつも頷いた。──知りたい。彼のことなら、なんでも。

彼はわたしを自分の脚の間に背を向けた格好で座らせると、掛布を手繰り寄せ自分ごとわたしを包み込んだ。

ほわりとしたぬくもりが心地いい。密着した肌の感触も、彼の甘い匂いも。 ──何よりここは『わたしだけ』に赦された場所。…こんな時でさえそんな優越感に似たものを確かに感じながら、身を委ねた。


「嫌いだったんだよ」
「え…」
「誕生日」

『興味がない』のではなくて『嫌い』。反射的に口にしかけた「どうして?」 は飲み込んだ。…今はただ、彼の言葉に耳を傾けよう。そう思い直したから。

「今朝話したよね。母親は女の子が欲しかったって」
「……」
「それをね、はっきり言われたのが6歳の誕生日」


─あなたはいらない子だったの─


彼の母親は彼に言い放ったそうだ。
まだ幼い彼に真正面から容赦なく。

無条件にお祝いされる、特別な日の筈なのに
一番祝われたい相手から否定されてしまった

それはどれだけ恐ろしくて、哀しかっただろう…


「おかしいでしょ?」

背から聞こえた自嘲の声。

もう20年以上も前の話なのに、まだ引き摺って。
毎年『その日』が来る度に『その日』は蘇って。

忘れるようにした。無かったことにしようとした。
でもできなかった。『あなたはいらない』それは
呪いの如く心の奥底に絡みつき、離れてくれない。


「、ん…っ」

肩口に触れたのは…彼の髪。凭れ掛かられた。
それこそ本当に…縋り付くように。

「…ごめんね、少しこうさせて」

か細い声。何て返せばいいかわからなくて。
頷くこともできず、俯くしか出来なかった。

「……」

今ここにいるのは、わたしがよく知る麗。
今ここにいるのは、わたしが知らない麗。

…でも、そこで初めて気が付いた。
ああ、わたしたち『同じ』だったんだって。
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