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第17章 【彼と彼の兄と姉】

「──で、なんで椎名兄が鍵持ってたんだよ。姉ちゃんは知らねえってよ。やっぱテメーがトチ狂って渡したんじゃねぇのかボンクラ」
「だーかーら俺じゃねーって言ってんだろヘタ麗」

何処からか戻って来たご主人様たちとほぼ入れ替わりに、椎名さまたちは帰っていった。
羅々さまをおうちまでお送りし帰宅して早々、麗さまは流星さまに噛み付いた。ああ、麗さまは椎名さまを『しいなにい』と呼ぶのね…って、そんなこと今はいい。早く止めないと。

ほんの数時間前に彼らの兄姉がいた場所に、今は本人達がいる。いつも通りの光景なのに、その雰囲気は険悪だ。
打開すべく、台所で夕食の準備をしていたわたしは作業をしながら声をかけた。解決になるはずだと信じて。

「わたしがお渡ししたんですよ?」
「は?」

その声に反応し、一斉にこちらを向いた二人。
その顔には思い切り『何言ってんだこいつ』と書いてあった。怯みそうになるのを堪え、何とか言葉を続ける。

「み、三日くらい前に、椎名さまからお電話頂いて…"流星の許可は得てるから合鍵作らせて"って。それで鍵をお渡ししました」
「………」

それを告げた直後、彼らから表情が消えた。
そして揃って顔を掌で覆い隠し項垂れてしまった。大きな溜め息もついたぐらいにして。

「え?え?何ですか??」

怒っている…のではなさそう。でも様子が変。
まずいことをしてしまった…?!

彼らはそのまま静かな声で命じた。何というか、こう…何かを押さえているような口調で。

「未結ちゃん…。鍵の交換費用は、君の給料から引かせてもらうね…」
「こ、交換??」
「あとさ…基本的に俺も麗も、用あったら直接お ま え に言うから。今度他の奴に何か言われても断れ。つかまず俺か麗に確認しろ」
「は、はあ…」

最後に彼らは顔を上げると、まるで示し合わせたように同じ言葉を口にしたのだった。


「俺たまに育児してる気分になるよ」
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