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BeLoved.【蜜月記】
第7章 世界はそれを女王様と呼ぶんだぜ

逆上せる寸前で揃ってお湯を上がり、身支度を整えて部屋に戻った頃。時刻はちょうど夕食どきになっていた。
「オイ麗起きろー。エサの時間だぞー」
布団に包まり、すやすやと安眠している麗さまに向けて流星さまが声をかけた。…エサ…。
「……」
呼び掛けに目を覚ました麗さまがもぞもぞと上体を起こし、眠い目を擦りながらわたしたちの方を向く。…あ、寝癖がついてる。ぐっすり寝てたんだなぁ…
「…なに流星、お前もう温泉入ったの」
「うん。未結と入ってきた。未結と」
ある意味叩き起された(?)麗さまは、普段以上の険しい眼差しと声色。
しかしもう御一方は全く動じない(慣れてるのよね)。それどころか『未結と』をやたら強調し、誇示するように笑うものだから、見てるこちらがヒヤヒヤしてしまった。
「あ、“未結と入った“ってか、“未結に入った“?」
「は?」
「れれれっ、麗さまはどちらになさいマスカ?!」
彼らの間の空気がヒビ割れる前に、わたしが自ら割って入った。右手には浴衣、左手には甚平を持って。
このお宿、宿泊客は男女ともに浴衣と甚平が選べるのだ(それもここに来たかった決め手のひとつ!)。
わたしは浴衣。流星さまは甚平(「ラクだから」だそうだ)を選び、それぞれ着込んでいる。
「未結とお揃いにするね」
そう即断した彼は、笑顔でわたしの右手から浴衣を取ると、直ぐに着替え始めた。…よかった、争いは回避できたみたい。
安堵したのもつかの間。麗さまは浴衣を着込みながら、再び険しい表情でこちらを見据えた。…お、怒って…?!
「…未結ちゃん、合わせそれ、逆じゃない?」
「えっ」
「あ、マジだ。未結おまえそれ、故人にするやつだよ」
慌てて自分の胸元を見下ろす。…彼らの指摘通り、左前になっていた。…嘘でしょ…
「オイ流星やっぱりそうだよな?俺今自分で着てて、何かおかしいって思ったんだよね」
「ヘタ麗すげーじゃん。俺服の下にしか興味ねーから気付かなかったわ」
「ななっ、直してきます!!」
部屋を飛び出し、帯を解いて着方を正しながら。つくづく自分の間抜けさを呪い、溜息をついたのだった。

