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教師は午後から
第1章 人助け
「あら、今日はあまり飲まないんですね」

カウンター越しにママの声が聞こえた。浩二は顔を上げ、軽く笑顔を見せる。行きつけのスナックでビールと簡単な夕食をとっていた。

「この後予定があって」
「あら、もしかしてデート」
「まさか」

浩二は、少しにやけた感じで、答えた。ママはそれ以上の質問はしてこない。いつも聞き役に徹してくれる。
この店は、あまりプライベートに踏み込んでこないところが、気に入っていた。
浩二は、スマホでメールのチェックをしてみる。
まだみゆきからの連絡は入っていなかった。
ひと月くらい前、みゆきとの関係が始まったのも、この店だった。

「宮下先生ですか」

学校以外で“先生”と呼ばれたのは初めてだった。
浩二は、恐る恐る後ろを振り返った。
その女性の顔立ちから、教え子の顔を想像して、記憶を一瞬のうちに総動員する。

「美子のお母さんですか」

後日、みゆき(美子の母親)と相談があるということで、夕食を共にした。
ワインを二本ほど空けたあと浩二が切り出した。

「相談事ってどんなことですか?」
「ごめんなさい。すっかり忘れて楽しんじゃってました。」

浩二は、優しく微笑み返した。

「実は、私の周りの奥様方にストレスを貯めてる方が大勢いるんです。」
「でしょうね〜。既婚の女性は、何役もこなしていますからね〜」
「そうなんですよ。原因はまちまちですが、結構深刻なんです。」

その後の言葉を待ったが、みゆきは口ごもっているようだった。

「ストレス解消には、色々なやり方があると思いますけど……」

浩二は努めて明るく話すように言った。
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