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第10章 10
「紗織さん・・・ 紗織さん
 あぁ、 どうか・・しっかりなさって下さい、紗織さん・・・・」


 風呂から上がり、部屋に戻っても、
未だ意識を呆然とさまよわせている紗織を、
実和は泣きつくように声を絞り出して、その身体にすがった。


「たまに・・・だけ・ど・ね・・・・」


紗織がぽつりと声を発した。


「あいつ・・私のこと 抱き締めて 嬉しそうに笑うの

 あんな めったに感情ださない あいつが
 私を抱きしめた時だけ・・・ほんとうに、嬉しそうに 笑って・・た。

 だから、私、 ・・あいつ、 ひょっとしたら
 私のこと好きなんじゃないかっ・・て

 ・・・そう・・思って ・・・・っ」


先ほどまでずっと、表情を振るい落としていた紗織の顔が、
見る見る歪んでその目から 大粒の涙をぼとぼとと落とす。


「その笑顔も! 優しいキスも!! 撫でてくれた手も!!
 呼んでくれた名前でさえも!! 全部  全部

 違ったの!! 違った!!私じゃなかった!!! 私なんかじゃなかった!!!

 こんなことってある!?!
 私なんかいらないじゃない!!!

 誰も 本当に誰も  わたし  なんか いらないじゃないの!!!」


紗織は絶叫した。泣き声は 引き攣って、時々裏返った。
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