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第11章 １１

　人気の少ない早朝の社内の自室で
黒皮製の安楽椅子にゆったりと腰掛け、男は静かに目を閉じた。
頭の中で今週と一日のスケジュールを構成しながら、
その細微までをパズルのように組み立てる。

今の段階で取り入れるべき必要な情報は
社に向かう車内において吸収してしまっている。


「金森順造様からメッセージを数件、承っております」


　秘書の高嶋が抑揚の無い声でそう促した。


「なんだ。　あの男、くたばらなかったのか」


聞かずとも分かる内容ではあったが、
男は軽く手を伸ばすと、デスクの上の電話の小さく点滅するボタンを押した。

途端に流れ出す、ヒステリックな声に　男は煩そうに片眉をあげると、
全て聞き終わらないうちに、堂々巡りの発言の繰り返しを消去した。

まだ、その機能を十分に発揮せずにいる週明けを迎えたばかりのオフィス街を
地上に遠く離れた窓ガラス越しに見つめながら
僅かな苦笑を唇に浮かべて、男はしばし昨日の記憶を思い起こした。