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第13章 番外 前編
背中の火傷が粗方癒えて、ようやく不自由無く働けるようになったのは、
春めいた気候が、すっかり夏の暑さを含み蒸しだした頃だった。
退院したその日に、実和は数少ない自分の身の回りの品を持って、北の屋敷に向かった。

北の屋敷に住まうのは、津々井家の当主の先妻の遺児である二人の姉弟だった。
姉の名は早織と言い、弟の名は雅斗と言った。

この姉弟は実の母である先妻の死後、すぐに嫁いできた継母の志津子に、
顔も見たくないと疎われ、以後この屋敷で使用人の手で育てられてきたとのこと。
北の屋敷とは当主の住む本邸から見て北にあることから付いた呼び名だった。


「初めまして。実和 さん?
 今日から私の元で、この屋敷で働いてもらうことになるわ。
 私の世話ばかりさせてしまうのだけれど、どうぞ宜しくね?」


屋敷の主である姉の早織の居間に挨拶へ向かうと、実和が声を掛ける前に
いつか聞き覚えのある清々しい少女の声が先に飛んできた。
とんでもありません、こちらこそ宜しくお願い致しますと実和は頭を下げる。


「嬉しいわ。実和さん、私と同じ年なのでしょう?
 私、ほとんど学校に行けなくって、使用人は年長者ばかりだしで
 同じ年の娘とろくに話したことがないの。
 だから貴女がこちらに来てもらうことになって、とても嬉しいわ」


早織は、生まれつき身体が弱く、治療の困難な病気を抱えていた。
実和が屋敷へ来た日も、軽い熱を出しては部屋で寝込んでいた。
彼女は幼少の頃、 医者に、この子は二十歳まではとても生きられないだろうと宣告を受けていた。
しかし、誰もそれを信じてはいない と言うよりは、信じきれないでいる。
おそらく本人以外は。
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