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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第8章 8 太子
一人だけ従者を連れて、隆明は太極府を訪れた。
「ここはいつも静かだな」
太極府には人がいても、じっと探求と考察を続ける場所なので、雑音が少ない。今聞こえるのは、カタ、カタと算木を置く物音や、書物のめくれるかすかな摩擦音ぐらいだった。従者を外で待機させ、勝手知ったる太極府の中をどんどん進む。かといって、王子が来たなどと権威を示すようにずかずか上がり込むことはない。そっと忍び足のように『卜』とかかれた部屋に入った。
部屋には一人、晶鈴だけが隅のほうで座って石を並べている。囲碁の石を置く音よりも優しい、コトリ、コトリという音を、心地よく隆明は聴く。
熱心な晶鈴は、隆明が来たことに気づかずに石を並べ眺めている。邪魔をしないように隆明も彼女を眺める。出会ったころの幼い少女はすんなりとした肢体を持つ清らかな乙女となった。
ほかの女人と違い、彼女は捉えどころがなく感情もつかめない。青年になった隆明を見つけると、女人たちは好意的な、何か含みのある目線を送ってくるが晶鈴にはまるでない。それが安心感でもあり、不満でもあるむず痒い感覚だった。
丸かった顔も面長になり、聡明さがより顕著になってきた。しかし瞳の無垢さだけは出会ったころのままだったと思い出している最中に「隆兄さま」と声がかかった。
「ああ、晶妹」
「ぼんやりなさって。もう太子になられるのですよ? しっかりせねば」
「口うるさいなあ。そのようなことを言うのは、そちだけだぞ?」
「このようなところを陳老師に見られたら……」
「大丈夫だ。さっき父王のところにいたし、ここまで帰るのにまだまだ時間がある」
「ここはいつも静かだな」
太極府には人がいても、じっと探求と考察を続ける場所なので、雑音が少ない。今聞こえるのは、カタ、カタと算木を置く物音や、書物のめくれるかすかな摩擦音ぐらいだった。従者を外で待機させ、勝手知ったる太極府の中をどんどん進む。かといって、王子が来たなどと権威を示すようにずかずか上がり込むことはない。そっと忍び足のように『卜』とかかれた部屋に入った。
部屋には一人、晶鈴だけが隅のほうで座って石を並べている。囲碁の石を置く音よりも優しい、コトリ、コトリという音を、心地よく隆明は聴く。
熱心な晶鈴は、隆明が来たことに気づかずに石を並べ眺めている。邪魔をしないように隆明も彼女を眺める。出会ったころの幼い少女はすんなりとした肢体を持つ清らかな乙女となった。
ほかの女人と違い、彼女は捉えどころがなく感情もつかめない。青年になった隆明を見つけると、女人たちは好意的な、何か含みのある目線を送ってくるが晶鈴にはまるでない。それが安心感でもあり、不満でもあるむず痒い感覚だった。
丸かった顔も面長になり、聡明さがより顕著になってきた。しかし瞳の無垢さだけは出会ったころのままだったと思い出している最中に「隆兄さま」と声がかかった。
「ああ、晶妹」
「ぼんやりなさって。もう太子になられるのですよ? しっかりせねば」
「口うるさいなあ。そのようなことを言うのは、そちだけだぞ?」
「このようなところを陳老師に見られたら……」
「大丈夫だ。さっき父王のところにいたし、ここまで帰るのにまだまだ時間がある」