 この作品は18歳未満閲覧禁止です
 この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館

夕方の事務室。
スマホが着信ランプを知らせてきた。
婚約者の武藤《むとう》陽介《ようすけ》からだった。
〈今夜、会えないかな〉
前回のデートは、陽介に緊急の仕事が入ってドタキャンされた。
申し訳ないと何度もあやまってくれた。
日々、タイトな予定で動いている陽介だが、どうやら、たまたま時間が空いたらしい。
しかし、今日は真波の方が忙しかった。
〈ごめん。まだ仕事が終わらないの。今日はちょっと無理かな〉
〈そうか〉
何気ない文字の裏に、気落ちした表情がうかがえた。
そう思うと、どうしても会いたくなった。
〈あ、でも九時過ぎなら行けるかも。
それでもいい?〉
〈もちろん! 一緒に食事をしよう〉
急に文字が踊るようだった。
待ち合わせの場所を決めて、スマホをしまう。
ゆるみそうになる口元を、きゅっと引き締めて、真波はパソコンに向かった。
来週の常設展のキャプション(作品の説明文)を、なんとか今日じゅうに終わらせたかった。
 

 作品検索
 作品検索 しおりをはさむ
 しおりをはさむ 姉妹サイトリンク 開く
 姉妹サイトリンク 開く


