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真紅の花嫁
第18章 漆黒の少年
わずかの間、気を失っていたのだろうか。
目の前に亮の顔があった。
片頬を上げた、いつもの皮肉めいた笑み。
でも、眼の下を赤く染めて、かつてない激情を伝えてくる。
(………………)
ゆっくりと上半身を起こされた。
仰向けになった細い腰をまたがる格好になった。
息を呑んで、端正な美貌を見下ろす。
綾乃と将人は結ばれ、貴人が生れた。
綾乃夫人がどうやって秘密裡に出産したのかまではわからない。
貴人は里子に出された。経済的な援助は、何らかの方法でその後も続いたのだろう。
許されぬ子に、綾乃はどれほどの愛情を注ぐことができたのか。
そして――
亮は親から、武藤家への恨みを聞かされて育った。
そう考えるのは、突飛すぎるだろうか。
けれど、この少年の正体が何かなんて、もうどうでもよかった。
亮のことを思うだけで、胸がいっぱいになる。
もちろん、哀れみではない。
愛しさとも違う。
ただ、この少年の傍にいたかった。
そのためなら、すべてを捨ててもかまわなかった。