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真紅の花嫁
第6章 蜜色の警告
(もうこんな時間)
事務室の壁に掛けられた丸い時計を見上げて、真波はため息をついた。
解説カタログの原稿チェックをしていたら、あっという間に十一時過ぎになっていた。
〈朝山紫郎と日本の幻想絵画展〉まで、あと二週間。
展示レイアウトの決定、パンフレットの最終校正、個々の作品に付けるキャプションの作成、展示用機材や借用する美術品の搬入手配――やることは山のようにある。
自ら企画した展覧会だ。
市ノ瀬をはじめとした他の学芸員の助けを借りているものの、どうしても真波が中心になる。
日常業務をこなしながらの作業だから、けっこうきつかった。
もちろん、結婚式の準備だって、おろそかにはできない。
先週の、本縫い前のウェディングドレスの着てみた時の、晴れがましい気分もどこへやら。
やむを得ないとはいえ、企画展の開催のすぐ後で結婚式を挙げるというのは無謀すぎた。
一瞬、徹夜しようかとも思ったが、明日はギャラリートークの当番である。
さすがに眼の下に隈をつくった顔で来館者の前に立つわけにはいかなかった。