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Q 強制受精で生まれる私
第11章 4.5度目
「どうしよう…どうしようどうしよう…やっぱりもう、こうするしか…」

 考えれば考えるほどパニックになる私は、右手を汚れた陰部へゆっくりと伸ばしていく。

 指だけじゃダメだ。拳ごと入れなきゃ。
 あの男の毒ごと、この汚らわしい器官を引きちぎる。そもそもこんな無意味な物が付いているから、こんな目に合うんだ。
 こうすれば、全てが無かったことになるんだ…

 常軌を逸した猟奇的な応急処置しか思い付かず、破れかぶれでそれを実行に移そうとする。後少しで女として終わる寸前になって、ふと視界の端が明るくなった気がして、思わずはっとなって顔を上げる。

 窓ひとつ無い部屋で、冷たい蛍光灯の明かりだけが一縷の隙間もなく辺り一面を照らすのだから、一点だけが急に明るくなることなんかあるはずがない。事実顔を上げた私に待っていたのはさっきと何ら変わらぬ景色だった。だけど、もしその錯覚が無かったら今頃私は…急な吐き気に咄嗟に両手で口を抑える。

「うぶっ!! …はぁ…今、わたし…何てこと…」

 口から涎のように床に垂れ落ちる吐しゃ物をぼんやりと見つめながら、イカれた自分がしようとした行いを思い返し、背筋をゾッと強ばらせてしまう。自己破壊で解決しようとする不安定な思考を沈めようと、私はいがいがする口で何度も深呼吸する。

「…口回り、拭かなきゃ。気持ち悪い。」

 私はよろよろと立ち上がって、部屋の隅に乱暴に脱ぎ捨てていた服達を手に取り、それで口元を拭う。些か汚ならしい行いだけど、この部屋には元からこれらの服以外物が何も無い。それにこれらはあの男が用意した物だから、私の物じゃない。雑巾みたいに扱おうと私の心は痛くも痒くもない。

 床に撒き散らしてしまった物も片付けようと、一昨日着ていたズボンを取り出すと微かにチャリンという金属がぶつかり合う音が聞こえる。ポケットに手を入れて取り出すと、いくつかの硬貨が忘れちゃ困ると言わんばかりに輝きを放つ。

 それはいつの日か、あの男に押し付けられた無断出勤分の給料だった。これのせいで隠しカメラの存在がバレて、私の望みが潰えたのだ。本来なら恨みしかない物だけど、今の私にとってはこれが希望の光に思える。
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