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第12章 4.9度目

　刹那、顔が右に弾き飛ばされる。

　パチンという肉を叩く音が脳に響き渡り、何か強い力で真横に動かされた頬がじりじりと痛み始める。そっと左指で痛む箇所を触って確かめると仄かに熱い。あまりに突然のことに頭がぼんやりとして、取り敢えず視線を元に戻すとそこには息を荒くしながら怒りの表情を満面に浮かべた先生がいた。どういう格好なのか、右手がいつの間にか私の頬の位置まで移動している。

　理解するよりも先に私は、条件反射の如く右手を振りかぶる。目にも止まらぬ速さで先生の頬に飛んでいくそれは見事に命中し、より甲高い音を立てて先生の顔を左に弾き飛ばす。いつもなら余裕しゃくしゃくに避けられてしまう私の平手打ちは、先生に与えた衝撃の何倍もの痛覚が手の平と心に伝わるとても痛ましいものだった。

｢何よ…何なのよ!? どうして私が叩かれなくちゃならないの!?｣

　相変わらず先生は何も答えてくれない。視線はおろか顔も戻さずに、何かの痛みに耐えて噛み締めているような、複雑な表情をしている。何か言いたげな素振りを見せるも、ぶたれた頬の痛み以上に痛む何かに耐えながら出かかる言葉を必死に抑えているようだった。