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Q 強制受精で生まれる私
第7章 2.9度目
 「うーん。困ったなぁ。」と言いながら先生は頭をくしゃくしゃと掻きむしる。いつも演技ぶっている人だけど、あまりに予想外なお願いをされたためか今回ばかりは本当に困惑しているのが伺える。男からすれば夢みたいなお願いをしてしまったにも関わらず、自身が納得しない限りは手を出さない主義らしい。紳士ぶっている所が無性に頭に来る。

「…分かりました。熱心な患者を追い返すのは医者として恥ずべきことです。そこまで仰るのであれば、今日も治療を再開しましょう…それでは上着を脱いで診察台に横になって下さい。私は準備をしますので一旦席を外します。」

 そう言って先生は奥の部屋へと消えていく。姿は完全には見えないけど、恐らくすぐに戻ってくるだろう。何かをするような時間は残されてなさそうだ。カメラの位置とかこれからされることとか気がかりなことは尽きないが、上手くいくと信じるしかない。

 最悪な形であれ、どうにかここまでバレずに事は進んでいる。後はあの男の犯行を押さえるだけだ。警察にはあの男にそう言えと無理矢理脅されたと後で伝えれば、私の失言はカバーできるはずだ。そうだ。今日をもってこの悪夢の日々が終わるのだ。

 私は指示された上着だけでなくショーツまで脱ぐ。どうせ脱がされるし、あの男のことだ。着けていたら破かれたりされかねない。

 脱いだショーツの中央には明かりに照らされてキラキラ反射している何かが付着している。まだ始まってもいないのに、極度の緊張のせいで全然気付かなかった。でもそれがあまりに綺麗で、寒くもないのに何故か身体が震えだす。

 しんと張りつめた空気の中、私の低間隔の呼吸音だけが聞こえる。吐息、駆け巡る血潮、そして二度も侵食されしまった大事な所。そのどれもが熱く感じられる。この熱も震えも、恐怖から出てきてしまったものだと信じたい。

 決して。決して悦びから来る物だなんて思いたくはなかった。

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