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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第2章 ごみ捨て場の神さまと金の薔薇
 最後に慣れぬ銀食器で真黄色の卵をひとすくい、薄いくちびるの間に押し込んだ男の子が、細い喉でそれを飲み下す。

 ひょろひょろと青白く、吹けば飛びそうな姿で、一生懸命心の臓を動かしている。

「足りたかね」
「お腹いっぱい、です。ありがとお、ございます」
「きちんとお礼を云える子は悪くないね」

 西園寺の言葉に、彼はふにゃふにゃと笑みをこぼした。からだが温まったのであろう、表情には欠片も警戒心はない。

「それで、」
「うん」
「それで、おれはごはんのお礼に何をすればいいの」
「話がはやい子も悪くない」

 ひとつ、教えてくれたらいいよ。

 急に、おそらく本来のものらしい、幼い子どものような口調になった陽色を見て、西園寺は右手の人差し指を立て、左右に振った。

「君たちのサアカスに、道化師はいるかね」
「どうけし、」
「そう、どうけし」

 西園寺は、陽色の幼い口調を、模倣するようにそう云った。少年は暫く、くちをつぐむ。それからゆっくりと首を横に振った。

「いないよ」
「ほんとうに、」
「おれ、あんたにだけは嘘をつかないって、決めたの」
「……そう」
「そう!」

 天女さまに嘘をついたら、罰が当たるどころじゃすまされないもん。

 私は天女でもなんでもないよ、と云ってやることもできたけれど、西園寺は云わずに、ひとつ、小さく頷いた。

 リチウムを燃やしたようなうつくしいひとみに、天女のようにうつくしく見える己でありたいと、ふと、思ってしまった。天女どころか。

 私は、化け物だ。
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