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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第3章 血まみれ道化師と血みどろお人形
がたがた、ぎいぎい。

 歪な音をたてて、幕は上がった。擦り切れた紅色の緞帳は、いかにも打ち捨てられた劇場のもの。擦り切れた布張りの椅子に腰かけて、数年前、あの日、を図らずとも思い出してしまい、西園寺は悪夢でも見ているかのような気分に陥っていた。

 客引きで雪の中踊っていた人形が、存外に好みの顔をしていた。

 云ってみればただ、それだけの理由で此処にいる。

 あの子の収入の足しになるのならばと、思ったよりずっと安い観劇料を支払い入場してみたは良いが、内容ははっきり云って見るに堪えない。

 これはサアカスという名の、見世物小屋だ。

 出てくる子どもたち、大人たちは皆、腕がないだの脚がないだの、手足が多いだの何だのと、芸というよりはその姿の奇妙さを売りにしていた。

 それはそれで良い。これがあるから彼らは生きてゆけている。

 しかし、これはこれとして、芸のひとつでも身に着けてみればよいものを。そうしたら、まだしも芸術的であると云うのに、勿体ない。

 西園寺は薄いくちびるをへの字に曲げて、けれどもあの、客引きの子が出てくるまではと座り続ける。

 痩せっぽちでぎすぎすしていて、いかにも華奢で歪な体型。

 幾らも動けなさそうな姿で、寸分狂わず踊り続けていた。螺子と歯車でつくられているのかと錯覚してしまいそうなほどに。

 それに、見間違いでなければ、彼のひとみはきれいな紅色であった。やけに目を気にする仕草をしていたから、まず勘違いではなかろうと思う。

 ついまじまじと覗きこんでしまった。あれはいささか不躾であったかも知れぬ。あれほど真赤なひとみを見たのは、人間も人形も含めて初めてだった。あれはあれで、もの珍しくもうつくしいと思う。出来ることならもう一度間近で見たい。
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