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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第4章 柔らかな寝台と触れた熱
 それから西園寺は急に陽色を膝の上から下ろし、服を整えると、寝台からも下りてしまった。

 慌てて後をくっついていってみれば、どうやら机に向かっているようだ。おそらく普段は繕い物をしているのだろう、繊細なつくりのミシンと、布と、レエスと、リボンとが、雑多に広がっている。

 そんな中に、引き出しから新しく取り出したのは、青い洋墨と、羽筆だった。

 黄ばんだ分厚い便箋に、彼女はどんどん文字を書いてゆく。一枚、二枚、三枚、四枚。

 陽色は云われるがまま、便箋をきれいに四つにたたみ、白い封筒に入れ、紅色の蜜蝋で封をした。封筒の上に血のように赤々と広がった蝋の上へ、エムブレムをとんと押す。

 大輪の花を咲かせた荊に、歯車の意匠を三つ組み合わせたエムブレムは、何とも彼女らしい。知っているものならばひと目で誰からの便りかわかるであろう。

 片方の封筒に宛名を書きながら、彼女はしかしみるみる落ち込んでゆくように見えた。ほんとうに気分の浮き沈みが激しい。

 これではひとりで生きてゆくのも大変であろうと陽色は思い、思った己に驚く。

 昨日まで、己のことで精いっぱいであったというのに。

 生意気にも、もうひとの心配をしている。

「……泣かないで、」
「泣いてない」

 私が泣いていいことではないからね。

 血の気の失せた顔をした、うつくしいひとの横に寄り添う。

 薔薇のような、そうではないような。冷えた、あまいにおいがする。
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