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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第5章 探偵少女と見世物劇団
 雅弥には、友人がひとりいる。

 未だに、友人だと思っている。

 その子はやけに紅いひとみと、やけに白い肌と、やけにきれいな顔を持っていた。声変わりをすませたばかりのざらざらした声音。仔猫のようにあどけない雰囲気と、驚くほど華奢なからだ。

 かわいくて、きれいで、やさしい子。素直な、いい子。

 もし彼の生まれた場所が場所ならば、抱きしめられ慈しまれてすくすく大きくなったに違いない。

 生憎と、雅弥と彼は地獄にほど近いところで出会ってしまった。そうでなければ友人になどなっていなかったかもしれないけれど、雅弥はいつも、その「もし」を考えてしまう。

 どの「もし」であっても、やはり雅弥と彼は仲良くなっていただろう、と思う。それは希望的観測でもなんでもなく。ただ、雅弥のことを、女のこ、王女さま、なんて呼んでくれるのは、故郷の記憶を含めても、陽色ただひとりだから。

 まるで己らしくない、とは、思う。らしくなくしたのが、あのあいらしい子どもだとすれば、うれしい、とも。

 粗末な鏡台の前、ひとり座って雅弥は化粧をしている。

 いつも隣りにいたあの子はいない。お人形のように小さな顔に、白粉をはたき、紅を引いてやることもない。

 昨日は眠ることができなかった。そのせいであろうか、目の下にくっきりと黒い陰ができている。今からでは冷やすことも温めることもできぬ。仕方なくいつもより強く白粉をはたいた。
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