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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 
 直輝は良い加減な男ではない。彼は男気のある男だから、一度始めたことを途中で放り出したりはしない。《もちろん、どちらかを選ばなくてはならない場面に遭遇したとすれば、より責任を負わねばならない方を選択するだろうが》。
 それとも、彼も人間だから、やはり義務や責任といったものよりも、己れの感情や気持ちに素直に従って行動するときもあるのか。
 思えば、直輝とは幾つもの季節を共に過ごし、歳を重ねてきた。彼は単に夫というだけでなく、幼いときから同じ時間と想い出を共有してきた友であり同士でもあった。
 何故だろう、自分は大切なことを忘れていたような気がする。  
 またも想いに沈んでいる紗英子の耳を、直輝の声が打った。
「凜工房の時計なんて、安いものでも五万はくだらないだろう? 嬉しいよ。ありがとう」
 邪気のない笑顔は、本当に中学生の彼に戻ったようだ。やはり、直輝が時計通だというのは本当なのかもしれない。あの時計店の販売員は、凜工房の時計の良さは、通にしか判らないと言っていた。
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