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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
―なあ、もう良いだろう?
 最初、紗英子は夫の言葉の意味を図りかねた。
―何が良いの?
―子どものことさ。俺は別に子どもなんかいなくても良いんだよ。紗英子がいてくれれば、それで良いんだから。そりゃあ、人の親ってものにもなってはみたかったけど、ここまでしても無理だったんだ。やっぱり、そろそろ諦めた方が良いんじゃないかと思うんだ。お前だって、辛くて苦しい治療を続けるのは、しんどいだろう? 身体にだって、相当の負担がかかってるだろうし。
―なに、それ?
 紗英子は悔しさのあまり、眼に涙を滲ませて言い返した。
―私はそんなのいやよ。赤ちゃんが欲しいの、絶対に欲しいのよ。諦めたりなんかしない。
 大人しい直輝はそれきり、何も言わなかったけれど―、思えば、そのときから、直輝との関係が微妙に狂い始めたのだとの自覚は紗英子にもある。
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