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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 
「そういう言い方は止せ。別に有喜菜が悪いわけじゃない。俺が―ただ、お前に話さなかっただけだ」
 そのひと言は紗英子の心を鋭く抉った。
―俺がただ、お前に話さなかっただけだ。
 自分一人で大切にしておきたいことは、他人には話さないと直輝は言う。ならば、その大切なことを話した有喜菜は他人ではないということになる。では、話さなかった紗英子は何なのだろう?
 私は彼にとって何なの?
 直輝に愛されて、彼のことなら何でも知っている―つい先刻までは自信に満ち溢れていたのに、今はこんなにも心許ない。もしかしたら、良い気になっていたのは紗英子一人だったのか?
 直輝と歩んできたこの長い年月は、彼にとっては何の意味も持たないものだったのか?
 夫婦として苦楽を共にしてきた紗英子よりも、有喜菜との友情の方が大切なのだろうか。
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