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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
だが、だからといって、子どものいない夫婦のすべてが不幸だというわけではない。子ども以外にも生き甲斐を他に見出して生きてゆく夫婦も現実にはたくさんいるのだから。例えば、夫婦共通の趣味を持つとか、考え方は色々あるだろう。
しかし、紗英子にはどうしても、それを受け容れることはできそうにない。望んでもけして得られないものを望むほど、愚かで空しいことはない。それよりは今、身近にあるもの、幸せを見つめて生きてゆく方が何倍も賢明だし、建設的だ。判っていながらも、なお子どもを欲しいと思ってしまう自分はやはり、相当の馬鹿なのだろう。
赤ちゃん、私の赤ちゃん。
紗英子は泣きながら、どこにいるはずもない、けしてやってくることはない天使のことを思った。まだ一片の可能性があるときなら、辛抱もできた。でも、これから先、自分は何を支えに生きていけば良いのだろう。子どももいない夫と二人だけの気の遠くなるような日々を重ねて、年老いて、やがて死ぬ。
先が判っている運命ほど退屈で怖ろしいものはない。紗英子は既に決まってしまった自分の未来に想いを馳せながら、いつまでも枕に顔を埋めて泣き続けた。
しかし、紗英子にはどうしても、それを受け容れることはできそうにない。望んでもけして得られないものを望むほど、愚かで空しいことはない。それよりは今、身近にあるもの、幸せを見つめて生きてゆく方が何倍も賢明だし、建設的だ。判っていながらも、なお子どもを欲しいと思ってしまう自分はやはり、相当の馬鹿なのだろう。
赤ちゃん、私の赤ちゃん。
紗英子は泣きながら、どこにいるはずもない、けしてやってくることはない天使のことを思った。まだ一片の可能性があるときなら、辛抱もできた。でも、これから先、自分は何を支えに生きていけば良いのだろう。子どももいない夫と二人だけの気の遠くなるような日々を重ねて、年老いて、やがて死ぬ。
先が判っている運命ほど退屈で怖ろしいものはない。紗英子は既に決まってしまった自分の未来に想いを馳せながら、いつまでも枕に顔を埋めて泣き続けた。