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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 紗英子は躊躇いもなく切っ先を喉元に当て、軽くすべらせた。つうっーと白い喉を刃先がなぞり、細い血の筋が走る。
「おい、お前」
 直輝が口許を戦慄かせた。
「どう? もっと見たい? 赤ちゃんが欲しくて欲しくて、夢にまで見たのに、とうとう神さまに授けて貰えなかった可哀想な女の最後が見たい?」
 別に脅しのつもりだけではなかった。この時、紗英子は本当にもうこのまま死んでも良いと思った。一度は諦めようとした。でも、やっぱり、諦めきれない。子どものいない人生なんて―考えられない。たとえどれほど愚かと言われようが、自分は子どもが欲しい、赤ちゃんをこの腕に抱きたい。
 だから、もうこれで直輝が協力してくれず、本当に今度こそ子どもを望めないと判ったのなら、ここで今、死ぬのも悪くはないし悔いはない。
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