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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
「気がついて良かったわ。本当に良かった」
長年の親友紗英子がハンカチを眼に押し当て、しきりに〝良かった〟と繰り返している。一体、何がそんなに良かったというのだろう。
「幾ら何でも、もうそろそろ麻酔から覚醒しても良い頃だとお医者さまから言われて、もう二時間が過ぎてるの。ずっと眠り続けるあなたを見ていると、このまま永遠に目覚めることないんじゃないかと心配になって」
また声を詰まらせる女を、有喜菜は冷めた眼で見つめる。
たかだか体外受精の処置を受けた程度のことで、死ぬなんてあるはずがない。ましてや、それで使用する麻酔で永遠に意識が戻らないだなんて。なのに、眼前のこの女はあたかも有喜菜が死地から生還したかのように驚喜している。そのことが随分と愚かで滑稽に思えてならなかった。
有喜菜がうっすらと微笑んだのを、紗英子は良いように誤解してくれたようである。まだハンカチで目尻を押さえながら、幾度も頷いた。
長年の親友紗英子がハンカチを眼に押し当て、しきりに〝良かった〟と繰り返している。一体、何がそんなに良かったというのだろう。
「幾ら何でも、もうそろそろ麻酔から覚醒しても良い頃だとお医者さまから言われて、もう二時間が過ぎてるの。ずっと眠り続けるあなたを見ていると、このまま永遠に目覚めることないんじゃないかと心配になって」
また声を詰まらせる女を、有喜菜は冷めた眼で見つめる。
たかだか体外受精の処置を受けた程度のことで、死ぬなんてあるはずがない。ましてや、それで使用する麻酔で永遠に意識が戻らないだなんて。なのに、眼前のこの女はあたかも有喜菜が死地から生還したかのように驚喜している。そのことが随分と愚かで滑稽に思えてならなかった。
有喜菜がうっすらと微笑んだのを、紗英子は良いように誤解してくれたようである。まだハンカチで目尻を押さえながら、幾度も頷いた。