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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
「その様子では、気分は悪くないようね」
「お陰さまで」
お陰さまでというのも何やら妙な応えだとは思ったけれど、それしか思い浮かばなかった。
「私、どれくらい意識を失っていたのかしら」
処置を受ける前は一時間程度と聞かされていたはずだが、紗英子の狼狽え様ではかなり長く眠っていたらしい。
紗英子は吐息を洩らした。
「そうね。かれこれ三時間くらい眠っていたことになるかしら」
「三時間も意識を失っていたの」
別にどんな表現でも構わないようなものだが、何だかこのときの有喜菜には紗英子の〝眠っている〟という言い方が気に入らなかった。やはり、常になく神経が高ぶっているのも麻酔の影響がまだ完全に消えてはいないのだろう。
この日、正確に言うと二〇一三年三月一日、有喜菜はS市のエンジェル・クリニックで第一回目の体外受精の処置を受けた。親友の紗英子から〝私と直輝の子どもを生んで欲しい〟と依頼されたのは去年の十二月下旬、世間はクリスマス当日のまだ華やかなムードが消えやらぬ頃であった。
「お陰さまで」
お陰さまでというのも何やら妙な応えだとは思ったけれど、それしか思い浮かばなかった。
「私、どれくらい意識を失っていたのかしら」
処置を受ける前は一時間程度と聞かされていたはずだが、紗英子の狼狽え様ではかなり長く眠っていたらしい。
紗英子は吐息を洩らした。
「そうね。かれこれ三時間くらい眠っていたことになるかしら」
「三時間も意識を失っていたの」
別にどんな表現でも構わないようなものだが、何だかこのときの有喜菜には紗英子の〝眠っている〟という言い方が気に入らなかった。やはり、常になく神経が高ぶっているのも麻酔の影響がまだ完全に消えてはいないのだろう。
この日、正確に言うと二〇一三年三月一日、有喜菜はS市のエンジェル・クリニックで第一回目の体外受精の処置を受けた。親友の紗英子から〝私と直輝の子どもを生んで欲しい〟と依頼されたのは去年の十二月下旬、世間はクリスマス当日のまだ華やかなムードが消えやらぬ頃であった。