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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
紗英子と違い、自分はまだ彼の子どもをその身に宿し生むことができる。それは有喜菜の心を大きく揺さぶり、一抹の迷いを生じさせた。
気がつけば、有喜菜は紗英子に〝良いわ〟と応えていた。ただ、最後まで紗英子に〝あなたの子どもを生む〟とは言わず、
―私は直輝の子どもを産むわ。
と告げた。あれは、むろん故意の上のことであり、有喜菜のせめてもの矜持であった。自分は紗英子に利用されるのではない、自分自身の意思で、紗英子にもできなかった行為―好きな男の子どもを生むのだ。
その気持ちを精一杯、あのひとことに込めたのだ。紗英子にそれが伝わったかどうかも判らないし、それはこの際、どうでも良いことだ。
しかし、あの日、紗英子と別れて自宅に戻ってから後、紗英子は幾度携帯電話を握りしめたかも知れなかった。こんなことは馬鹿げている。幾ら子どもが欲しいからといって、借り腹をしてまで赤ん坊を得ようとするのは行き過ぎだし、更にそれに協力しようとする自分もどうかしているとしか思えない。
気がつけば、有喜菜は紗英子に〝良いわ〟と応えていた。ただ、最後まで紗英子に〝あなたの子どもを生む〟とは言わず、
―私は直輝の子どもを産むわ。
と告げた。あれは、むろん故意の上のことであり、有喜菜のせめてもの矜持であった。自分は紗英子に利用されるのではない、自分自身の意思で、紗英子にもできなかった行為―好きな男の子どもを生むのだ。
その気持ちを精一杯、あのひとことに込めたのだ。紗英子にそれが伝わったかどうかも判らないし、それはこの際、どうでも良いことだ。
しかし、あの日、紗英子と別れて自宅に戻ってから後、紗英子は幾度携帯電話を握りしめたかも知れなかった。こんなことは馬鹿げている。幾ら子どもが欲しいからといって、借り腹をしてまで赤ん坊を得ようとするのは行き過ぎだし、更にそれに協力しようとする自分もどうかしているとしか思えない。