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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 紗英子が何をしようと望もうと自由だけれど、自分までがその狂気に引きずり込まれる必要はさらさらない。
 理性はそう告げてはいたけれど、直輝の子どもを生むというそのことは何とも抗いがたい魅力となって、紗英子の理性を狂わせるのだった。また、それだけではなかった。紗英子が代理出産の報酬として提示した金額は途方もないものだった。
 有喜菜は現在、N町のマンションに一人暮らしである。N町では、まず高級マンションの中に入ると言って良い。保険外交の仕事で入る収入は多くはなかったけれど、少なくもなく、贅沢をしなければ、それだけのマンションに住むゆとりはあるのだ。
 だが、有喜菜ももう三十六歳、これから再婚する気は毛頭ない。結婚も男も、もう最初の結婚でほとほと嫌気が差した。仮に、これから好きな男ができて共に暮らすようになったとしても、籍を入れる気は毛頭ないのだ。一人の男に自分の人生を縛られるなんて、もう懲り懲り。
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