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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
 現に、母親の言葉が引き金になったように、待合室にいた数人の妊婦が窺うように紗英子の方をチラリと見た。紗英子にはそれが辛かった。
 名前が呼ばれるまでにはなお二十分ほどかかったが、それまでの時間の何と長く感じられたことか。むろん、皆、大人だ。あからさまな視線は寄越さないものの、時折、ちらちらと寄越される好奇心の入り混じった視線が堪らなくうっとうしいものに感じられた。
 紗英子はまたしても滲んできた涙をまたたきで散らした。待合室の片隅には大きなクリスマスツリーが飾られている。そういえば、あと二週間もしない中に、クリスマスがやってくる。
 その瞬間、自分たちの結婚記念日が三日後に迫っていたことに気づいた。直輝はこういった夫婦の記念日については結構、マメな男である。よく釣った魚に餌はやらないタイプの男もいるらしいが、彼は違った。夫婦の記念日には必ず結婚式を挙げたホテルに予約を入れ、ディナーをご馳走してくれる。また、そのときにプレゼントしてくれる贈り物も欠かさなかった。
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