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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
それが、すべての間違いの因(もと)だったのだ。もっと早くにそのことに気づいていれば、いや、気づいても気づかないふりなどしないで、直輝と二人だけで生きることを考えれば良かった。後に、自分がどれほど後悔することになるか、その時、紗英子はまだ知らなかった。
大抵、結婚記念日の何日か前には、
―今年もNホテルのディナー、予約しといたからな。
まるで、それが神聖な儀式の始まりでもあるかのように口にする直輝だが、流石に今年はまだ一度も、それらしいことは口にしない。
まあ、紗英子がこんな状態では、ディナーなんて行けるはずもなく、ましてや三日後は退院すらも覚束無いだろう。どんなに経過が順調でも、二週間の入院は必要だとあらかじめ言い渡されているのだから。
初めから行けないものについてあれこれ話しても、かえって空しくなるだけだと思っているのかもしれない。そう考えてみれば、いかにも直輝らしい気遣いだと思えた。紗英子は直輝が何も言い出さなかったことについて、そんな風に解釈した。
大抵、結婚記念日の何日か前には、
―今年もNホテルのディナー、予約しといたからな。
まるで、それが神聖な儀式の始まりでもあるかのように口にする直輝だが、流石に今年はまだ一度も、それらしいことは口にしない。
まあ、紗英子がこんな状態では、ディナーなんて行けるはずもなく、ましてや三日後は退院すらも覚束無いだろう。どんなに経過が順調でも、二週間の入院は必要だとあらかじめ言い渡されているのだから。
初めから行けないものについてあれこれ話しても、かえって空しくなるだけだと思っているのかもしれない。そう考えてみれば、いかにも直輝らしい気遣いだと思えた。紗英子は直輝が何も言い出さなかったことについて、そんな風に解釈した。