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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第9章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
あの夜、直輝が
―お前には、ほとほと愛想が尽きた。
と言ったのは何も言葉の勢いだけではなかった。そのことを今になって紗英子は漸く悟ったのだった。
それに、先刻、見た有喜菜の仮面のような表情が瞼に浮かぶ。
―要するに、私の役目は十ヶ月後に、元気な赤ん坊をあなたに渡すことでしょう? それさえ守れば、あなたに私の私生活についてあれこれと口出しする権利は一切ないの、良い?
言い放った時の冷たい瞳。紗英子は静まり返った湖のように感情の欠片も宿さない双眸を思い出し、身をぶるりと震わせた。
いや、あの静謐な瞳の奥底に一瞬、揺らめいたのは蔑み? それとも、憐れみか勝ち誇った勝者の余裕だったかもしれない。
そんなことを考える自分の方がどうかしているのだろうか? 有喜菜は紗英子の二十六年来の友人なのに。すべてが悪い方へとしか考えられなくなってしまっている。
―お前には、ほとほと愛想が尽きた。
と言ったのは何も言葉の勢いだけではなかった。そのことを今になって紗英子は漸く悟ったのだった。
それに、先刻、見た有喜菜の仮面のような表情が瞼に浮かぶ。
―要するに、私の役目は十ヶ月後に、元気な赤ん坊をあなたに渡すことでしょう? それさえ守れば、あなたに私の私生活についてあれこれと口出しする権利は一切ないの、良い?
言い放った時の冷たい瞳。紗英子は静まり返った湖のように感情の欠片も宿さない双眸を思い出し、身をぶるりと震わせた。
いや、あの静謐な瞳の奥底に一瞬、揺らめいたのは蔑み? それとも、憐れみか勝ち誇った勝者の余裕だったかもしれない。
そんなことを考える自分の方がどうかしているのだろうか? 有喜菜は紗英子の二十六年来の友人なのに。すべてが悪い方へとしか考えられなくなってしまっている。