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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第9章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
 子どもが生まれるというのは神の領域なのだ。だから、妊娠・出産を人為的に操作するのは神の意思に反するのだ。あの時、直輝は主張し続けた。更には彼はこうも言ったのだ。
 子どもがいないのは淋しいけれど、これからは夫婦二人で穏やかな日々を紡いでいこう、と。でも、あのときの自分は頑なに代理母出産に拘り続け、結局、有喜菜を代理母として選び、決行した。結果として、有喜菜は妊娠。
 あと十ヶ月後には、待望の我が子が産声を上げる。すべては自分の望み通りになったはずなのに、何故か心は虚ろで寒々としていた。
 夫の反対を押し切り、成し遂げ勝ち得た妊娠。自分で生むことはついに叶わなかったが、考え得る限りのあらゆる手を尽くして、とうとう自分の血を引く赤ん坊をこの手に抱くことができる。
 しかし、代理母出産をすると告げた日から、夫との間には溝ができ、それは深まるばかりだった。今や夫婦の会話は全くなく、直輝はただ自宅には食事と寝るためにだけ帰るようなものだ。仮面夫婦どころか、今の紗英子は夫にとっては単なる家政婦か同居人にしかすぎない。
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