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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
 直輝が出かけてから、ふいに思い立って、しまい込んであるクリスマスツリーを出してきた。ここ数年、出すことも忘れていたため、外箱には埃が積もっていたが、丁寧に埃を払い、ツリーを出して飾り付ける。特に子どももいないので、小さなものだが、それでも綺麗にデコレーションして飾ると、それなりにクリスマスらしい雰囲気を出すのにひと役は買ってくれる。
 その成果に一人満足し、紗英子は色とりどりの電球が点滅するツリーを眩しげに眺めた。
 ふと、あの小さな男の子は今頃、どうしているだろうかと考える。確か拓也と呼ばれていた。あの母子は紗英子よりはひと脚早く退院したらしいから、今は家族揃って幸せなひとときを過ごしているに違いない。
 生まれたばかりの小さな家族を迎え、一家にとっては最高のクリスマスとなるだろう。男の子の無邪気な笑顔を思い出している中に、微笑ましくもなり、また、心にぽっかりと空いた穴を薄ら寒い風が吹き抜けてゆくような気持ちにもなった。
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