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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第12章 ♦予知夢~黒い霧~♦
 紗英子はあの時、直輝の顔色を上目遣いに眺めながら、さり気なく反応を見守った。そう、あくまでもさりげなさを装って。心に邪(よこしま)で醜い野心と嫉妬を隠していることなど、大好きな彼に気ぶりほども悟られないように。
 直輝は一瞬、整った顔を強ばらせ、信じられないといった表情で言った。
―本当なのか? その話って。
―それは判らないわ、でも、私も有喜菜から直接聞いたんだけど、どうなのかしらね。
 いつも歳の割には大人びて滅多なことで取り乱したことのない直輝が顔色を変えて、立ち上がった。
 彼はもう紗英子のことなど眼中にもない様子で、校庭から教室へと駆け戻っていってしまった。後には桜の樹の下に残された紗英子と、まだ殆ど手つかずの弁当二つ。その日の朝、五時起きで紗英子が腕によりをかけて直輝のために作った弁当だったのに、彼は見向きもしなかった。
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