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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
♠Round.Ⅰ(喪失)♠
ゆっくりとまたたきを繰り返している間に、ぼんやりとした視界が徐々にクリアーになってゆく。紗英(さえ)子の瞳は、漸く周囲の光景をはっきりと映すことができるようになったらしい。しかし、直にその視界はまたもや曇り、すべてのものがぼやけて見えた。
紗英子は滲んできた涙を堪え、泣いているのが判らないように顔を枕に押しつけた。
「気がついたのか?」
ふいに耳許で声が聞こえ、男が自分を覗き込んでいるのが判った。見慣れた顔は、夫の直輝(なおき)だった。
「良かった、気がついたんだな」
別に、そんなに大騒ぎするほどのこともないじゃないの。
紗英子はどこか冷めた眼で夫を眺めていた。元々、生命を失う危険なんて殆どない手術だと医師からも事前に聞かされていたはずである。その程度の手術に怯え、〝死ぬかもしれない〟と泣き喚いたことなどきれいに忘れ果て、紗英子は皮肉な想いで考えた。
ゆっくりとまたたきを繰り返している間に、ぼんやりとした視界が徐々にクリアーになってゆく。紗英(さえ)子の瞳は、漸く周囲の光景をはっきりと映すことができるようになったらしい。しかし、直にその視界はまたもや曇り、すべてのものがぼやけて見えた。
紗英子は滲んできた涙を堪え、泣いているのが判らないように顔を枕に押しつけた。
「気がついたのか?」
ふいに耳許で声が聞こえ、男が自分を覗き込んでいるのが判った。見慣れた顔は、夫の直輝(なおき)だった。
「良かった、気がついたんだな」
別に、そんなに大騒ぎするほどのこともないじゃないの。
紗英子はどこか冷めた眼で夫を眺めていた。元々、生命を失う危険なんて殆どない手術だと医師からも事前に聞かされていたはずである。その程度の手術に怯え、〝死ぬかもしれない〟と泣き喚いたことなどきれいに忘れ果て、紗英子は皮肉な想いで考えた。