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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第12章 ♦予知夢~黒い霧~♦
去ってゆく直輝にできることは、それが精一杯だと判っていた。彼は彼なりに最後まで誠意を尽くそうとしているのだ。不実な男であれば、代理出産は紗英子一人が勝手に行ったことと言い逃れて知らん顔もできるのだから。
「判ったわ」
「じゃあ。俺はもう行くよ」
直輝が踵を返そうとするのに、紗英子は早口で声をかけた。
「赤ちゃんは、赤ちゃんを抱いてはいかないの?」
直輝の歩みが止まる。彼は首だけをねじ曲げるようして振り返った。
「抱いてしまえば、余計に別れの辛さが身にしみる。いつか、もし許されるなら、その子が大人になった時、俺と対面させてくれ」
直輝の眼には光るものがあった。泣いているのかもしれない。
今度こそ、彼が背を向ける。大好きだった彼が、十二歳のときから今までずっと見つめ続けてきた彼が、私から去ってゆく。
「判ったわ」
「じゃあ。俺はもう行くよ」
直輝が踵を返そうとするのに、紗英子は早口で声をかけた。
「赤ちゃんは、赤ちゃんを抱いてはいかないの?」
直輝の歩みが止まる。彼は首だけをねじ曲げるようして振り返った。
「抱いてしまえば、余計に別れの辛さが身にしみる。いつか、もし許されるなら、その子が大人になった時、俺と対面させてくれ」
直輝の眼には光るものがあった。泣いているのかもしれない。
今度こそ、彼が背を向ける。大好きだった彼が、十二歳のときから今までずっと見つめ続けてきた彼が、私から去ってゆく。