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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第12章 ♦予知夢~黒い霧~♦
夫の顔を見ても、その整いすぎるほど整った面には最早、何の感情も浮かんではいない。その事実が何より物語っていた。既に直輝の心は自分から離れてしまっていることに―。
そして、紗英子は気づいたのだ。このすべてを諦め切ったような哀しげな静けさは、かつて、有喜菜が紗英子に見せたものに似ていると。
妊娠が判った日、有喜菜が湖にはるかな視線を向けながら、ひっそりと纏っていた静謐さに通ずるものがあった。もしかしたら、直輝と有喜菜はとても似た者同士なのかもしれない。魂の奥深い部分での同士とでも言えば良いのだろうか。
やはり、直輝の側にいるべきだったのは、この自分ではなく有喜菜であったのか。
紗英子はもう、どれほど言葉を尽くそうと、夫の心を取り戻せないことを知った。
「子どものこれからの養育費はもちろん、俺がすべて負担する。お前が生んだというのならば、認知もできようが、残念ながら、今のこの国の法律ではそれも認められない。だが、たとえ戸籍上は赤の他人でも、この子が俺の子どもだという事実は変わらないし否定するつもりもないんだ。それだけは理解して欲しい」
そして、紗英子は気づいたのだ。このすべてを諦め切ったような哀しげな静けさは、かつて、有喜菜が紗英子に見せたものに似ていると。
妊娠が判った日、有喜菜が湖にはるかな視線を向けながら、ひっそりと纏っていた静謐さに通ずるものがあった。もしかしたら、直輝と有喜菜はとても似た者同士なのかもしれない。魂の奥深い部分での同士とでも言えば良いのだろうか。
やはり、直輝の側にいるべきだったのは、この自分ではなく有喜菜であったのか。
紗英子はもう、どれほど言葉を尽くそうと、夫の心を取り戻せないことを知った。
「子どものこれからの養育費はもちろん、俺がすべて負担する。お前が生んだというのならば、認知もできようが、残念ながら、今のこの国の法律ではそれも認められない。だが、たとえ戸籍上は赤の他人でも、この子が俺の子どもだという事実は変わらないし否定するつもりもないんだ。それだけは理解して欲しい」