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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第3章 ♠Round.Ⅰ(喪失)♠
 大きな声を出せば、まだ縫い合わせたばかりの傷に響く。そんなこともこの男には判らないのだろうか。
「一人になりたいの」
 今は誰にも話しかけられたくない。
 紗英子の眼から熱い涙の滴が溢れた。
「紗英―」
 直輝の分厚い手のひらが肩に乗せられる。
 思わず振り払いたい衝動を堪え、紗英子は低い声で繰り返した。
「お願い、今は話しかけないで。私の精神状態って、多分、普通じゃないと思うから。一人になって少し考えたいの」
 直輝から大きな溜息が洩れるのが判った。
「判った。少し外を歩いてくるよ。でも、もし具合が悪くなったら、すぐに看護士さんを呼ぶんだぞ?」
 直輝はそれでもまだ紗英子を気遣いながら、病室の外へと出て行った。
 優しい夫、妻を気遣う夫。直輝の姿はむしろ当然のことだろう。むしろ自分の荒れ狂う感情のままに、他人に八つ当たりする紗英子の方が非難されるべきだ。
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