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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第4章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 彼の指摘はある意味では、正論ともいえる。セックスは何も子作りのためだけに存在するのではなく、夫婦間のコミュニケーション、愛情表現の一種でもある。誰もがそのとおりだと頷くに違いない。
 ただし、それは夫と妻が互いに愛し合い信頼し合っていればの話で、気持ちがとうに冷め切ってしまっているのであれば、また話も違ってくる。少なくとも、子どもを望んでいる間は、紗英子は直輝を夫として必要とし、愛していたはずだ。むろん、その必要としている気持ちの中で〝子どもの父親〟としての要素が大きく占めていたことは認める。
 それでも、まだ夫への想いは確かにあった。しかし、辛い不妊治療の過程で、幾度も直輝に背を向けられ拒絶されていく中に、紗英子の気持ちもまた直輝と同様に少しずつ冷えていった。
 恐らく、二人の気持ちは不妊治療を始めたときから、少しずつすれ違い、溝は深まっていっていたのだろう。だが、二人ともにそのことについては気づいていながら眼を背け、見ないふりをしてきた。だからこそ、辛うじて結婚生活の破綻を免れていたのだ。
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