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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
1日の仕事が終わった。
でも、真っ直ぐ家に帰りたくない。
それはいつものことで、
茉莉子の足は、ビルの地下にある小さなバーに向かっていた。
小さい「OPEN」のプレートが掛かっているのを確認して、
そっと重たいドアを押した。
「お帰りなさい」
ママが明るい声で迎えてくれる。
「ただいま」
と、茉莉子は小さな声で答えて、
端っこのスツールに座った。
おしぼりを受け取りながら、
「いつもので。それと何かつまみたいな」と言うと、仕事用のタブレットをバッグから出して、メールをチェックし始めた。
特に目新しいものはなく、
不要なメールを削除したら、もうすることはなくなった。
携帯は仕事以外では滅多に鳴ることはなかった。
のんびり氷が溶けるのを見ながら、
マスター自家製の燻製されたナッツやチーズをつまんでいると、
カウンターの真ん中あたりに座っている2人組の男性のうちの1人がフラフラと立ち上がって近づいてきた。
酔っ払ってるな。
絡まれたら嫌だな。
お手洗いなら、反対側なのに、
何でこっちに来るのよ。
困惑しながらやり過ごそうと下を向いていると、
そのまま隣に座ったその男性は、
「あの。違っていたら申し訳ないんだけど、山川茉莉子さん?」
と茉莉子に声を掛けた。
「えっ?」
驚いて茉莉子は男性を見るが、
正直面識はないように感じた。
「覚えてないですかね。西高放送部の神崎陽子と結婚した長谷川です。結婚式で司会してくださった山川茉莉子さんですよね?」
と、丁寧に説明されて、瞬時に思い出した。
そういえば、家族写真の年賀状が何度か届いていて、
確かにその顔には見覚えがあった。
「良かったらあっちで一緒に飲みませんか?野郎の顔見ながら飲むより、酒が旨くなりそうだし」
そう言われて、
ママに助け舟を出して貰おうと思ったが、
ママは反対奥に居る独り客の対応をしていて気づいてくれない。
茉莉子は、正直、他の人と、
しかも男性と話をするのが苦手で、
だからいつもカウンターの端っこに座るようにしていたのに、
突然の誘いで、しかも殆ど話もしたことのない学生時代の先輩の夫だという男性とご一緒することになったことに困惑していた。
でも、真っ直ぐ家に帰りたくない。
それはいつものことで、
茉莉子の足は、ビルの地下にある小さなバーに向かっていた。
小さい「OPEN」のプレートが掛かっているのを確認して、
そっと重たいドアを押した。
「お帰りなさい」
ママが明るい声で迎えてくれる。
「ただいま」
と、茉莉子は小さな声で答えて、
端っこのスツールに座った。
おしぼりを受け取りながら、
「いつもので。それと何かつまみたいな」と言うと、仕事用のタブレットをバッグから出して、メールをチェックし始めた。
特に目新しいものはなく、
不要なメールを削除したら、もうすることはなくなった。
携帯は仕事以外では滅多に鳴ることはなかった。
のんびり氷が溶けるのを見ながら、
マスター自家製の燻製されたナッツやチーズをつまんでいると、
カウンターの真ん中あたりに座っている2人組の男性のうちの1人がフラフラと立ち上がって近づいてきた。
酔っ払ってるな。
絡まれたら嫌だな。
お手洗いなら、反対側なのに、
何でこっちに来るのよ。
困惑しながらやり過ごそうと下を向いていると、
そのまま隣に座ったその男性は、
「あの。違っていたら申し訳ないんだけど、山川茉莉子さん?」
と茉莉子に声を掛けた。
「えっ?」
驚いて茉莉子は男性を見るが、
正直面識はないように感じた。
「覚えてないですかね。西高放送部の神崎陽子と結婚した長谷川です。結婚式で司会してくださった山川茉莉子さんですよね?」
と、丁寧に説明されて、瞬時に思い出した。
そういえば、家族写真の年賀状が何度か届いていて、
確かにその顔には見覚えがあった。
「良かったらあっちで一緒に飲みませんか?野郎の顔見ながら飲むより、酒が旨くなりそうだし」
そう言われて、
ママに助け舟を出して貰おうと思ったが、
ママは反対奥に居る独り客の対応をしていて気づいてくれない。
茉莉子は、正直、他の人と、
しかも男性と話をするのが苦手で、
だからいつもカウンターの端っこに座るようにしていたのに、
突然の誘いで、しかも殆ど話もしたことのない学生時代の先輩の夫だという男性とご一緒することになったことに困惑していた。