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水曜日の恋人
第12章 マダムへの道
マダムの葬儀告別式は、
ごく少人数でマダムがお元気な頃に通っていた教会で執り行われた。

お花の準備は全て私が行った。
美しいマダムに相応しい見送りの式にしたかった。


式の後、神父様に呼び止められた。
キリスト教徒ではないので、
キョロキョロしながらついていくと、
こちらへ…と言われて、
小さな扉の中に入ると、
親父様は小窓の向こうにいらっしゃった。


「ここは…懺悔室という部屋です。
ご生前にマダムがまだ、
外を歩く体力がある頃には、礼拝にいらして、
こちらにいらっしゃることもありました」


私は息を呑んだ。
マダムは神父様に私と酒井さんのことを話していたんだろうか?


「ご心配なく。
こちらで話されたことを誰かに言うことは決してありません。
勿論、マダムが何を話されたかも私は口に致しません。
ただ、言えることは、
マダムは全てを胸に納めて、
安らかに天国に召されたということです。
後を貴女に託して…というように見受けられました。
神様の御加護がありますように!」

「私は…
酒井さんと再婚するつもりです」

「それも、マダムのご希望だったのでしょう」

「私は…妻帯者だと知っているのに、
酒井さんと関係を持っていました」

「汝、姦淫するなかれ…
でも、私には、貴女がマダムの代わりになってしていたように思えました。
それを望んだマダムに、地獄へ堕ちるだなんて言えませんでしたよ。
何も出来ないことを恥じて、悔やんでらした。
だからこそ、貴女に夫を託したかったのでしょう。
ああ…神に仕える身でこのようなことを言うのは不適切ですね。
とにかく…
マダムから、貴女が再婚に二の足を踏んでらしたら、
後押しして欲しいと言われてましたので。
杞憂でしたね。
どうぞお幸せに!」


そう言って、静かに神父様は去っていった。
1人残された私は、
マダムのことを想った。

この狭い部屋で、
マダムは何を想い、
何を話していたのかしら?

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