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あおい風 あかい風
第3章 まよい
 「ひどい男だよな」

 あの時は そう思った。そのまま大輝の胸にすがりつく。泣きそう。
 わたしを覗きこむあの強い目。せっかく手に入れかけたこのたくましい胸をうしなってしま う。さっきのうっとりするような唇も 自転車の振動でうごめく広い背中も 胸をさわって気持ちよくしてくれた指も。なくなる。
  まだ 大輝のことをよく知らない。知らなくても 好きになってしまった。好きになって 好きだと言ってもらって もっと、もっと大輝のことを知りたいと思う。いなくなったりしたら どうやって もっと知ることができるのだろう。
 ぎゅうと力をこめて大きな身体を抱きしめる。このおもい とどけっ。

 しばらく髪をなでてくれていた大輝が 碧の身体を引き離す。ふわりと重力を失い 大輝に抱き上げられたのだと気がつく。
 テレビの中の芸人さんたちは 何かで大騒ぎをしている。

 「おれの部屋にいこっ」

 さっきの部屋とは違い 大輝の部屋は 慌てて整えられたような生活感がある。
 机の上は ノートや筆記用具が隅におかれ 参考書や問題集が立てて並べられている。有名大学の過去問の赤い背表紙もある。
 床には 大輝の汗の匂いが染み込んだスポーツバッグ。椅子の背には 見慣れた黒のスウェット。 大輝は ここで眠り 目覚め 学んで成長したのだ。すべてから大輝の匂いがする。
 「やりたいことがあるから」
 そして ここから出ていく。

 ベッドの真ん中あたりに碧をおろすと
 「せっかく 我慢してたのに」
 じっと碧を見つめた後 カーテンを閉めた。なにがおこるのか 碧にもわかった。

 「やめろ、って言ったら やめるから」
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