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Memory of Night 2
第14章 夏休みに向けて
「なあ、晃。髪切って」
「…………え?」
ーー七月の半ば。
梅雨も明け、本格的な暑さが到来してきていた。あと一週間ほどで夏休みに入るというそんな時期、朝食の席で宵が思い出したように言う。
「なんでー? 今度は俺のために伸ばしてくれるって言ったのに」
「鬱陶しいんだよ。もういいだろ」
「えー……」
晃は拗ねたように唇を尖らせてみせた。
というのも、志穂が入院したての頃、主治医である弘行の提案に乗り、願掛け目的で髪を切らない時期があった。志穂が無事退院したので晃に髪を切ってもらったが、代わりに今度は自分のために伸ばしてほしいとお願いされたのだった。
深く考えず了承してしまったが、一度短い髪に慣れると、ずるずる伸びる鬱陶しさに耐えられなくなりそうだ。おまけに季節は夏。とにかく暑い。
「縛ればいいじゃん」
「めんどい」
「……言うと思ったけど」
「今日予備校ないだろ。俺もバイトないから夜切って」
「えー、急すぎない? 俺の心の準備は?」
「なんで俺の髪を切るのにおまえの心の準備がいるんだよ」
宵は呆れたようにため息をつき、アイスコーヒーを一口飲む。コーヒーは毎朝の日課で、晃が用意してくれていた。最近は暑いからもっぱらアイスコーヒーだ。
ちなみに今日の朝食はトーストと目玉焼き。これも晃お手製だ。七月になっても家事をほぼ晃が受け持っている状況に特段変化はなかった。