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Memory of Night 2
第4章 新たな波風

「ところで宵くん。前に会ったことないよね?」
「え?」
「ハルちゃんが連れてくるまで面識はなかった? どうも君の顔を昔見たことがあるような気がして」
宵は亮の顔を見つめる。宵よりも十センチ以上長身で、オールバックがよく似合う男だった。堀の深い顔立ちと、話した時の柔らかなトーンがギャップにも思える。紺のスーツというきっちりした格好が大人の色香を醸し出していた。妖しいバーに相応しいルックスだなとは思うが、過去に会った覚えはまったくなかった。こんな華やかな容姿なら、記憶の隅に残りそうなものなのに。
「気のせいだと思いますけど」
男がふっと宵の前に立った。ステージの照明とテーブル席の明かりが遮られ、マスターの顔は逆光になって見えなくなる。黒い影になり柔和な表情が消えると、長身の男の迫力が増した。
「……そうか。僕の記憶違いか。もしかしたら、一方的に見たことがあっただけかもしれないね」
一方的に? その言い回しに眉をひそめる。
その時だった。薄暗かった店内の照明が一斉についた。見るとショーが終わっていた。
「そろそろ時間だね。お疲れ様。上がっていいよ」
マスターが宵の前から退(ど)く。いつの間にか亮の後ろには春加が立っていた。

