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Memory of Night 2
第29章 桃華

「その顔、昨日の記憶はちゃんと残ってるっぽいな。呼んだだろ? 俺のこと桃華って」
春加は何も返せなかった。長い沈黙の中、宵はじっと春加を見つめる。
「……客、だったんだよ」
不自然すぎる間を埋めるにはあまりに淡白だった。
春加は宵から視線を逸らした。
ーーダメだ、頭痛がする。
「客? ここの?」
「……そ、昔の。十年くらい前、たまにここに」
「ーーそれ、嘘だろ」
適当にでっちあげた話を、最後まで聞くこともなく宵は遮った。
再び正面に座る少年の顔に視線を戻すと、桃華と同じグレーの目が自分を見据えていた。
「母さん、こういう店には多分来ない」
あの日の記憶が蘇る。
ーーこんなところで何してんだ! 戻ってこい!
桃華は『こんな店』には来ない。そんなことはわかってる。
彼女はずっと、綺麗な場所にいた。汚らわしい欲望とは無縁の場所で、たった一人に、秋広だけに愛されて。……子供まで。
「……こんな場所、確かに来ないよな」
春加は自嘲気味に呟いた。
頭痛が、止まらない。こめかみに右手を当てた。ふつふつと体内で沸き上がるのは、酷い苛立ちだった。
宵はむっとした顔で、さらに聞いてくる。
「そういう変な嘘やめろって。また人のことからかってんの? 母さんとどういう知り合い? 友達? 俺に最初声をかけてきたのも、顔が似てたからだろ?」

