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Memory of Night 2
第29章 桃華

あの時はなんでそんなことを聞くんだろうと不思議に思ったが、今ならその理由もわかる気がした。
宵の母親がーーつまり桃華がすでにこの世にいないことを知っていたからだ。
「何か……あったのかい?」
春加と入れ違う形でスタッフルームに入ってきた亮の声で、宵は顔をあげた。
春加のそばにいつもいるこの男も、桃華について知っているのだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
宵はわずかな時間亮の目を見つめたが、亮は軽く首をかしげただけだった。
「すみません、春加さん……怒らせちゃったみたいで」
宵が頭を下げると、亮は笑った。
「何言ってんの、ハルちゃんが悪いんだよ、自分の限界もわからずウィスキーなんてガバガバ飲むから」
そうして視線を灰皿に向ける。春加が吸っているタバコとは違う銘柄の吸殻が二本だけだった。
「大好きなタバコも吸えないほど、二日酔いが酷かったみたいだね」
まったくねえ、などと亮は苦笑する。
「……一つ、聞いていいですか?
「なんだい?」
「桃華って名前に、心当たりはありますか?」
宵が直球で尋ねると、亮は一瞬動きを止めた。
「やっぱ、知ってるんすね」
「……その話をしてたのかい?」

