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Memory of Night 2
第32章 雪

「ねえ、……ーー」
懐かしい名を呼ばれた。
春加ははっとして、ベッドの上で上体を起こした。そこは亮の部屋だった。暖房は効いているが、少し肌寒い。何も身に付けないまま眠ってしまっていたせいだろう。
まだ夜らしい、小さな明かり一つだけの部屋は薄暗い。
ベッドに腰掛け煙草を咥えていた亮も、上半身は裸のままだった。
「……なんでいきなり本名で呼ぶ」
びっくりして飛び起きたのは、そのせいだった。一瞬自分が誰と、どこにいるのかわからなくなってしまったのだ。
「いや、仕事とプライベートはわけようかなと思って」
「何を今さら」
亮に本名を呼ばれたのは、どれくらいぶりだろう。
亮と初めて会った時の夢を見ていた。道端で突然、一緒に働かないかと声をかけられた。如月春加はその時亮がつけてくれた源氏名のようなものだったが、いつの間にか本名よりも、そっちの名の方が定着してしまっている気がする。
「ねえマスター、あの時、なんであたしに声をかけたんですか?」
この場がプライベートだなんて言わせない。どうせ亮にとっては、ただのビジネスだ。
だから春加はあえて彼をマスターと呼び、店で接するときのように敬語を使ってやった。
亮はわずかに笑みを浮かべる。

